リプレイ9 城下町 騎士見習いエルフ・ミラナと鼠獣人の盗人・チューダ
「待ちなさい、盗人チューダ!」
「待てと言われて待つやつはいないんだよ、へっぽこ騎士!」
城下町。
小柄な鼠獣人・盗人チューダとそれを追う騎士見習いのエルフの少女・ミラナ。
本来こういった小犯罪は騎士団ではなく警察の役目なのだが、どうにもこの街の警察は用事があって留守のようだった。
なので、騎士の中では見習いで重要なお勤めもあまりないミラナが駆り出されたというわけだ。
「おかみ、ちょいと借りるぜ」
「チューダ! 金払いなさいよ!」
チューダは八百屋にあったスイカをひょいと持ち上げてミラナへと投げつける。
対してミラナは、剣を抜いて宙に浮かぶスイカを両断した。
「ミラナちゃん、商品斬らないでよ!」
「ご、ごめんなさい! 騎士団のツケにしといてください!」
八百屋の女植物人の主人・ヤオに律儀に謝りながらも、ミラナは逃げるチューダの後を追う。
「うう、あとで団長に怒られちゃう……。でも今はチューダを捕まえないと!」
一瞬真面目な団長の説教を思い浮かべるが、今は任務をこなすことが先決。
そのためにもあの鼠獣人を捕まえなくては。
「へっぽこの癖に、根性だけは大したもんなんだからな……」
「へっぽこじゃないです!」
「おわっ!」
チューダの背後をとったものの、彼のひとりごとに反応して可愛らしい怒り声を立ててしまったミラナ。
当然、チューダも逃げる。
「そういうとこがへっぽこなんだよ! 後ろとったんならそのまま捕まえろよ!」
「確かに……」
「いや、俺に言われて納得するな! 調子狂うなぁ!」
天然気味なミラナのペースに、チューダの方が乱されていた。
それでもチューダはひたすら逃げる。
「ミラナちゃん、チューダ向こういった!」
「ありがとう、ございます!」
街の人にチューダの居場所を教えてもらいながら、ミラナはチューダを追う。
「あっちあっち!」「そっち行った!」「うちの商品がぁ!」
ミラナがチューダを追うたび、街の被害が増えていく。
その度ミラナは謝ってからチューダを追った。
しかしチューダの方が足が速く、なかなか追いつけない状況。
それでも。
「諦めませーん!」
ミラナは根性でチューダを追い続けた。
「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ。あのへっぽこ、いつまで追ってくるんだ?」
「へっぽこじゃ……ない……ですぅ……」
「だから、声を……あげるなと……ああ、くそ、もう体力がねぇ」
お互いに息を切らして会話するミラナとチューダ。
わずかにミラナの方が余力が残っていたようだ。
ミラナはチューダを捕らえることに成功した。
「やりました! やりました団長。私、一人で任務を達成できました!」
ミラナは頭の中で憧れの騎士団長の人間・ハーリアを思い浮かべて成果達成の報告をした。
そんなミラナを囲む影。
それは散々チューダとミラナに街を荒らされた人々だった。
「ミラナちゃ~ん?」
「あ、あはは、ごめんなさ~い!!」
ミラナは怒り心頭の人々から涙目で逃げ出した。
ミラナの忘れものの盗人チューダは後に無事牢屋に届けられたという。
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