リプレイ2 決戦草原 英雄志望の女の子ハティと狼吟遊詩人のミルフ
背の高い草が生い茂る草原。
「とりゃあああ!!」
駆け出し探索者の少女・ハティは羊型の魔物・ゴトに装備品の剣を振りかぶって斬りかかる。
しかし、その剣はすかりと的を外して地面を少し撫でてしまった。
「あり?」
「めぇ~~~」
「ふぎゃっ!」
ゴトの反撃の体当たり。
ゴトは比較的弱い魔物だが、その攻撃でも痛いし衝撃はある。
羊魔物の一撃はハティの華奢な身体を吹き飛ばした。
「ふげっ!」
地面に仰向けの状態で叩きつけられるハティ。
見上げた視線の先には今回の同行者で狼獣人のミルフという女性がいた。
「手伝おうか?」
「もうちょい頑張る!」
「そうか、頑張れ。危なくなったら私も手伝うよ」
「ありがと、ミルフさん!」
ここ、決戦草原は人々の生活圏に張られている魔物除けの結界からほど近い場所にある。
この近くの魔物は危険性が薄いためか、結界から近い場所に生息できているようだ。
そのため、ハティのような駆け出し探索者の実戦訓練にも使われる。
「うおおお活躍して、ヒーローになるぞー!」
剣を掲げて気合を入れるハティ。
それが空回りじゃなければいいけど、とミルフは苦笑しつつ事を眺めた。
すこん、すこん、すこんと空振りする剣。
その度にゴトに体当たりされて吹っ飛ぶハティ。
それでもハティはへこたれない。すぐに立ち直って立ち向かう。
「頑丈だなぁ。それに一所懸命だし、応援したくなる子だ」
「うーん、当たらないよ~~!!」
「ハティ」
見かねたミルフがハティに呼びかける。
「ミルフさん? まだ援護はいらないよ?」
「剣を横薙ぎに振ってごらん」
「あっ、そうか。ありがと、ミルフさん!」
「どうも」
ミルフが出した助言の意味を、ハティも理解したようだ。
再びハティはゴトの方へと向かっていく。
「よーし。いくよ。せやぁぁ!」
縦でなく、横薙ぎの一撃。
それは横に動くゴトという点を、攫うように切り裂いた。
「や……」
「や?」
「やったー! ミルフさん、見て見て初めて魔物を一人で倒せたよ!」
「ああ、おめでとう。紛れもなくそれはハティの実力だよ」
ちょっと助言しちゃったけど、とミルフはその思いは心の中にしまっておいた。
「ミルフさん。今度あたしのこと唄ってよ!」
「それは、ハティがもう少し強くなって活躍したらね」
「え~けち~」
ミルフは本来、吟遊詩人だ。
様々な人や魔物、精霊の伝承を唄い人々に伝える。
英雄願望のあるハティも、いつか吟遊詩人に唄われたいものだという思いがある。
「わかったよ~。ここからあたしの英雄譚の第一章が始まるのだー」
ハティはまた剣を大げさに掲げた。
「ハティならいつか英雄になれるよ」
と、小さく呟いたミルフの言葉ははしゃぐハティには聞こえていなかった。
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