リプレイ4 ならずものアジト 犬獣人のおまわりさんワーリ
「まったく、市民の皆さんはおまわりさんに頼りすぎなんだよなぁ~」
タバコをふかしながら、犬獣人の女性警察、ワーリは誰に言うでもなくひとりごちた。
どうにも、ならずものの親分カシダとその子分のハック・リック兄弟が街をうろちょろしては帰っていくらしい。
そこで、警察のワーリがアジトのあるほら穴洞窟へと足を運んだというわけだ。
「しかし、カシダもなんでこんなとこにアジト作るかねぇ。魔物もいるっていうのに」
カシダがアジトを張っているほら穴洞窟は、魔物除けの結界の効力の及ばない場所にある。
洞窟らしく、みみずやらもぐらやらの姿をした魔物が、侵入者に襲い掛かってくるのだ。
「そらよっと!」
電気の魔法を宿した魔法の警棒でワーリは襲い来るミミズの魔物を軽くあしらう。
彼女も荒事に遭遇しやすい職業。
洞穴洞窟の魔物程度は軽くあしらえなければ話にならない。
「む……」
なにか、引っかかる気配。
魔物の気配がない。それが逆に怪しい。
「もうちょいバレないようにしなよ。おまわりさんの目はごまかせないぞ~」
あたりに転がっていた大きめの石を手のひらに納めて、怪しい場所に投げ入れる。
すると、地面が沈んだ。
どうやら掘った落とし穴に地面と同色の布を被せてあったようだ。
「ぐるるるる」
ワーリがしばらく進むと、現れたのは黒い3つ首の獰猛犬。ケルベロスと呼ばれる魔物だ。
「やぁ、カシダのとこの新顔かい? カシダに話があるんだが、通してくれると助かるよ」
「ぐるあああ!!」
3つの首が同時に前に動いて、ガチンと牙を鳴らした。
どうやら、門番もとい番犬のようだ。
「めんどくさいのは嫌いなんだけどなぁ」
ぼやきながら、ワーリはケルベロスの3つの顎下に潜り込み、電気警棒を振って横撫で状に線を引いた。
纏った電流がケルベロスの3つ首全てをびりびりと痺れさせる。
ぎゃうん!と吠えて、ケルベロスは沈黙した。
「まぁ、殺しはしないよ。カシダもあれで根は悪くないやつだ。必要だから君を置いてるんだろう。というわけでカシダ。犬のおまわりさんだよー」
布切れ1枚で塞がれていた穴に入り込み、ワーリはそこの住民に気さくに挨拶をした。
小柄なハーフリンクの兄弟ハック・リックと大柄な人間の親分カシダだ。
カシダの方はどっしりと構えてワーリをにらみつけているが、ハック・リック兄弟は慌てている様子。
「あわわ! ポリ公だ……」
「どどどどうしやしょう、親分!」
「落ち着け、お前ら。ワーリ、なにをしにきた」
慌てる子分たちをなだめて、カシダがワーリに目的を問う。
ワーリは簡潔に要件を話した。
「市民の皆さんから苦情が来てね。注意しにきた」
「ほう。それで」
「いや、それだけだよ」
「え!? 捕まえに来たとかじゃなのか!?」
「捕まえて欲しいのかい、リック?」
「いやいやいやいや!」
はぁ、とカシダはため息をついた。
「あまりからかってやるな。わかったよ、注意受け取った。しばらくはな」
「受け入れどーも。それからこれは、私の忘れ物だ」
ワーリは懐から小袋をハックのもとに投げ入れる。
それをハックが確認すると、そこには相応の額のお金が入っていた。
「親分、これって……」
「ふん、悪いおまわりもいたものだ」
「なに、キミたちが金に困って盗みでもしたら仕事が増える。それに」
バレなきゃいいんだ。と小さく呟いたワーリはタバコに火の魔法をつけて、煙をふかして来た道を引き返すのだった。
「ありがとよ。ここは禁煙だがな」
ワーリはもう、カシダの言葉が聞こえない位置にいた。
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