リプレイ7 蛍の森 旅人ケイとアマリーと人魚錬金術師・レーマ

  特殊な光源を持つ蛍がいるという森。

 旅人・人間の女性ケイと魔族の少女アマリーは、人魚の錬金術師レーマとともにその蛍の採集に来ていた。


「はぁぁ!!」


 レーマが、”人間の足”で群れている巨大な蝶型の魔物の内一体を打ち倒す。


「よく虫に触れるわね」

「理解できません……」


 アマリーとケイも女性だ。いくら魔物で倒さないとはいえ、虫型に触れるのには抵抗感がある。


「ちょっと、ぼーっとしてないで手伝ってよ!」


 旅人2人をしかりつける人魚・レーマ。

 人魚とはいうが、今の彼女に魚の要素は見られない。

 普通の20代前半の人間の女性のようだ。

 

「あ、やば、薬切れる」

「え?」


 慌てた様子のレーマに疑問符を浮かべる旅人2人。

 直後、ポンッと音を立ててレーマの周りに煙が立ち、彼女の足が魚のヒレ持つ鱗に変わった。


「あー! ちょっ、助けて~!」


 蝶型の魔物が、足が変化して動けなくなったレーマに襲い掛かる。


「レーマ! 今いきます!」


 ケイが自身の武器のダガーを蝶の魔物に突き刺して息の根を止めていく。

 その間に、アマリーが電撃の魔法で他の蝶魔物を打ち落としていく。

 次々に、蝶の魔物の群れが数を減らしていく。


「ふぅ」

 

 ケイがダガーで最後の蝶魔物を打ち倒し、ぴちぴちと下半身で跳ねるレーマの元へ向かう。


「ちょっと、薬飲ませて、そこの袋」

「これですか?」


 レーマの指さした袋から薬瓶を取り出して、彼女の口元に近づけるケイ。

 レーマはそれをごくごくと飲み干していく。

 また、レーマの足が煙を立てて人間の足となる。


「ぷはぁ。ありがと」

「なんですか、これ?」

「見ての通り、人魚の足を人間の足にする薬よ。3分で元に戻るけどね」

「使いにくいわね」


 レーマの薬の不便さにアマリーがツッコミを入れた。

 レーマもそうなのよ、と前置きしてこう伝えた。


「この薬の持続時間を延ばす材料にここの蛍が必要なのよね」

「なるほど、じゃあまた人魚の足に戻る前に急ぎましょうか」

「わかったわ。人間の足の間は、戦闘できるしね」

「不便ねぇ」


 目的が明確になったところで、3人は先に急ぐ。

 



「蝶の次は蛾ですか」

 

 次に一行が出くわしたのは、蛾の魔物の群れ。

 どうにも森だからか虫の魔物が多いようだ。


「さっさといくわ……よ?」


 ポンッ、と立つ。煙。

 レーマの足が魚へ戻る。


「あー! 間の悪い! レーマさっさと薬飲む! ケイ、魔物の対処!」

「は、はい!」


 キレたアマリーに、ケイとレーマは同時におっかな返事を返した。

 魔物より怖いなぁ、と2人同時に心に思う。



「きしぃぃぃ!!」


 蝶の魔物に比べて、蛾の飛行は低空だ。

 ケイは下から救い上げるようにダガーを振るう。

 アマリーも、電撃魔法の発生位置を低くして対処した。

 その間に薬を飲んで人間の足になったレーマもかかと落としで魔物たちを打ち落としていく。

 そうやって殲滅している内に、一行は光源輝く泉に辿り着いた。

 そこには確かに求めていた蛍がいた。


「でも、この蛍の光ってなにが特殊なんでしょう?」

「なんでも。魔物を操る効果があるらしいわよ」

「え?」


 蛍を採集していたレーマがさらりと言ったとんでもないことに反応するケイとアマリー。

 周囲にはすでに蛍の光に操られた蝶と蛾の魔物が群がっていた。


「そういうことは先に言って!」

「あら、ごめん」


 ポンッとまたレーマの足が魚に戻った。


「ほんっとに間が悪いですね! アマリー!」

「了解!」


 今度はケイがキレた。

 指示を出したアマリーとともにケイはレーマを担ぐ。

 これだけの量の魔物に戦闘で付き合う必要はない。

 レーマを抱えて逃げ切るのだ。


「じゃあちょうちょさんと蛾ぁさんたち、お達者でー!」


 ぴゅー、と一目散に逃げだすケイとアマリー。

 



「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ」


 魔物除けの結界に入りケイとアマリーは肩で息をして呼吸を整える。

 人魚ひとり運びながらの森からの脱出は異常な体力を使う。


「協力ありがとねー。ところで悪いんだけど」


 蛍の採集を終えて上機嫌なレーマだがひとつ問題があった。


「薬なくなっちゃって。村まで運んでくれない?」

「……」


 ケイとアマリーは顔を見合わせて頷きあい、ただその場を後にするのだった。


「ちょ、待ってよ~!」


 後にはぴちぴちと跳ねるレーマだけが道端に取り残されていた。


 


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