リプレイ12 王の間 騎士団長・ハーリアと暗殺者・シェイド

 【今宵、グンキ王を暗殺する】


 王城に届けられたメッセージは、暗殺者によるもの。

 特徴的な影の魔物のマークは発信者が”シェイド”という暗殺者であることを示す。

 そのメッセージを受けて王宮騎士団団長の女騎士・ハーリアはグンキ王の護衛を務めていた。


「騎士団長、本当に大丈夫じゃろうか」

「ええ、私がお守りしますので、グンキ王」


 グンキ王は国民を思う良き王なのだが、このように臆病のきらいがある。

 この臆病さで影武者すら用意してないというのはグンキ王の人の良さ、いや、良すぎさの現れか。

 もう少し自信と、自分たちへの信用をもってほしいのだが、とハーリアは心でこぼした。


 シェイドという暗殺者。

 彼とは何度も手合わせたことがある。

 冷徹に、任務を遂行しようとする無感情という言葉そのもののような表情。

 ただどうも、彼はハーリアに執心しているようだ。

 わざわざグンキ王という、ハーリアが立場上居合わせそうな場所を選んだところからもそれが窺える。


 暗殺者は唐突にやってきた。

 まるで、我が家の玄関を開くかのようにグンキ王が座す王の間に侵入してきたのだ。


「ひぃ!? け、警備のものは!?」

「俺がそこらに寝かせておいた。……騎士団長」

「王、お下がりを」

「あ、いや、腰が抜けて……」

「では、そのままで」

「俺を無視するな!」


 ほう、とハーリアがシェイドを見る。

 この男は無表情がウリだった。少なくとも以前あった時はそうだった。


「お前を殺さねば、俺の気が済まない」

「ふむ、恨みを抱かれるようなことは……悪党にはしてしまったかもしれないな」


 ふっ、と王の間の灯りが消えた。

 それはシェイドの仕業だった。

 シェイドの放った闇の魔力が、周囲から光を奪ったのだ。


「ひぃぃぃ!」

「王!」


 臆病なグンキ王が驚いてあげてしまった声。

 それは達人クラスの戦闘技術を持つものなら明確な目印となった。

 目印に向かって向けられる刃。その刃を防ぐためのもうひとつの刃。

 シェイドの剣とハーリアの剣が、甲高い金属音と闇をわずかに照らす火花を放った。


「光、光だ。うっとうしい光!」


 怒りに任せるような横薙ぎの剣。

 それはまるで自身に群がる虫でも払うかのよう。

 そんな攻撃が、騎士団長・ハーリアに当たるはずもない。


「シェイド、なにをそんなに怒る?」

「知れたこと、俺はただ与えられた依頼をこなすのみ。そのためにお前という障害を排除する」


 シェイドの方でなにか魔力の流れを感じた。

 準備があるようだ。

 それと同時にシェイドがハーリアに敵意を向ける理由もわかってきた。

 要するに彼はプライドが高いのだ。

 与えられた依頼をこなすことは彼のプライドを守ること。

 こなせないことは彼のプライドを傷つけること。


「あいにく。私は君のプライドを傷つけるようなことが仕事でね」

「死ね」


 シェイドは剣と、光を奪った暗闇の中で生成されたいくつもの闇の魔力による刃をハーリアに向け振るった。

 しかしそれらは激しい閃光とともに切り裂かれる。

 シェイドが高い闇の魔力の素質を持つならば、ハーリアはその正反対・光の魔力の素質を持っていた。

 ハーリアが光の魔力を纏って放ったのはたった一撃。

 しかし闇の魔力全てを切り裂く一撃だった。

 光の魔力は闇を切り裂くだけにとどまらず、祓う。

 王の間は失っていた光を取り戻した。

 グンキ王は泡を吹いて気絶しているようだった。


「さて」


 ぐい、とハーリアの身体が沈んだ。

 シェイドが身構えた次の瞬間には彼の剣は折れていた。

 ハーリアの剣がただ純粋に、物理的に暗殺者の剣を折ったのだ。


「ぐっ!」

「何回言ったかわからないが、お縄についてくれると助かるんだが」

「そんなことをしたら、お前を殺せなくなる。俺はお前を殺し、俺のプライドを取り戻すまでお前を狙い続ける」


 ひゅっ、とシェイドがグンキ王に向けて寸鉄を投げた。

 それをハーリアが剣ではじく。

 その後でシェイドのいた位置を見ると、もう姿はない。

 対応している隙にシェイドは城から脱出したようだ。


「やれやれ、厄介なストーカーに好かれたものだ」


 ハーリアは自分の立場と運命を、皮肉まじりに少し笑った。


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