リプレイ20 城下町 天使・パパラと舞台魔法演出家セツナ

  天使パパラは今、欲しいものがあった。

 それはそれは喉から手が出るほど、神にお仕置きされてもいいほど欲しいものがあった。

 それは


「舞歌姫(アイドル)ルコ・ラインちゃんのサインが欲しい……!」


 天使にしては俗物的な、しかし確かに貴重なものがパパラは欲しかった。

 なのでこうしてルコ・ラインが舞台(ライブ)をした(パパラも堪能した)城下町でルコとの接触を計っているのだが。


「あの付き人のガードが固すぎる……!」


 パパラが羽根で飛んで上からルコに会おうとすれば、雷が飛び。

 地中を掘り進んで(?)近づこうとすれば地面の到達点を氷が塞ぐ。

 その魔法は全て、ルコの付き人の黒髪ポニテ少女が起こしていた。


「なんだよー、あの付き人。そこらの探索者の十数倍は魔法の扱い上手くなーい?」


 パパラは知らないが、妨害をしてくる黒髪少女は、ルコの舞台を演出する魔法を手掛ける魔法演出家・セツナ。

 パパラは知らず知らずのうちに、魔法のエキスパートと対立する流れになっていたのだ。

 しかしパパラも天使。末端とはいえ仮にも魔力の根源・精霊の仮人格(ペルソナ)。

 地上に人間に遅れをとるわけにもいかなかった。


「ふふふ、もう小細工はなしだね。真っ向勝負だ、付き人!」


 かくして、ルコを巡った攻防の火花が、ルコ本人の知らないところで幕を開けた。



 ふよふよと上から怪しい影が接近してくる。

 セツナはそれを目を細めて雷の魔法で迎撃する。

 律儀に同じ手を繰り返す来訪者に向けて同じ手を繰り出す。

 この不審者は、ものすごく怪しいというカンの元、セツナはルコに近づけさせないための妨害魔法を張り巡らせた。

 この街には、セツナの意志ひとつで起爆する魔法がわんさか置かれているのだ。


「セツナちゃーん、あっちのお店、おいしそう!」

「うん、そうだね」


 後はルコに気づかれないように不審者を追っ払えばいい。

 務めて自然体でセツナはルコの城下町探検に付き合った。

 その控え目な笑顔の裏では、光の魔法を使う不審者との凄まじい攻防が繰り広げられていることを隠して。



「ぐぎぎー。あの付き人、澄ましちゃってぇ~。光魔法をぶっぱ……はさすがに人間への被害が大きすぎて神様に怒られる。あ、そうだ」


 パパラは頭の中で名案を思い付き、すぐさま実行した。

 光の魔法を込めた小さな球がいくつかパパラの周囲を巡る。

 その小さな球が、セツナが必要な分だけ軌道させた魔法を、相殺していく。

 そのことにもセツナはすぐに気づくが、なくなった魔法をすぐさま補充することはできない。


「セツナちゃーん?」

「あ、えっとなに? ルコ」

「この後どこいこっかって話。セツナちゃんなんか上の空」

「ご、ごめん」


 シェフに出された肉料理を放ばりつつ、少しご機嫌斜めに頬を膨らませるルコ。

 ルコを怒らせてしまったことに注意がいってセツナは魔法の防壁の作動をおろそかにしてしまった。

 そして。


「ルコちゃーん!! サインくださーい!!」


 ついに、不審者の接近を許してしまった。



 しかし案外、終わってみればものごとというのは杞憂なものだ。

 このパパラと名乗る不審者はただルコのサインが欲しかっただけだという。

 気を張って損したと、セツナはため息をつき、申し訳なさそうにサインを書くルコを眺めた。


「あ、えっとサインの最後、ちゃんがいい? それともくん?」

「え?」


 パパラとセツナの声が一致する。

 それはひとつの事実に対する異なる反応。

 バラされたものと気づいていない事実を知ったもの。

 少女的なこの天使は、股間に立派なものが生えていて、それをルコは見抜いた。

 そうとわかればセツナの態度も一変。


「ルコに近づくなー!」


 声を荒げてけだものを追い払う。

 幸いルコのサインをもらい終えた男天使は怒りの魔法に晒されながら城下町を後にするのだった。

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