リプレイ13 ゴーレムの遺跡 戦士ギルドと魔法士ギルド 合同探索

  探索者の戦術は大きく2つに分かれる。

 先陣を切って魔物に金属製の武器などの物理攻撃で対抗する前衛・戦士。

 魔法を使って、魔物を攻撃したり戦士を支援する後衛・魔法士。

 彼らはそれぞれ異なるポジションにいるがゆえ、違う役割を持つ仲間を求める。


 さて、ここでもうひとつの話。

 探索者たちは時折、ひとつの共通の目的の元連合を組む。それらはギルドなどと言われたりもする。

 外の世界の生態系などを調査する調査隊ギルドなんかはそのひとつだ。

 この話に登場するギルドは2つ。戦士の集まり戦士ギルド。魔法士の集まり。魔法ギルド。


 ここで2つの話は合流する。

 つまりは戦士ギルドと魔法士ギルドは互いにないもの持っていて、互いに欲しがっている。

 協力関係にあるのだ。

 これからするのはそんな2つのギルドのちょっとした探索の話。


「おらぁぁ!!」


 戦士ギルドの男オーク・オングが鎖の先に鉄球のついた武器・モーニングスターで石人形を殴って、石の壁に叩きつけた。

 派手な音を破裂させて叩きつけられたものの、石人形はダメージを受けた様子もなく立ち上がる。


「だーかーらー! ゴーレムは命令魔法を封じなきゃ意味ないって言ってるでしょ!」


 オングに怒声を浴びせるのはダークエルフの女性・エルサだ。

 本来、ダークエルフというのは結構悪辣なイメージが世間の認識なのだが、エルサというダークエルフはそれとは違う。

 かなり生真面目で、善良なのだ。

 ここに来る前もオングに懇切丁寧に今対峙している石人形・ゴーレムの仕組みについて解説してやった。

 オングの方は理解できなかったのか首をかしげていたが。


「オング、魔法士の嬢ちゃんの話だと、その石人形を操ってる本体があるんだとよ」

「なるほど! さすがギルドマスター!!」


 槍を構えて石人形をいなすのは戦士ギルドのギルドマスター・スラーだ。

 オングはどうも、スラーの言葉なら聞いてくれるようだ。

 エルサはまともなスラーを介してでなければ話を聞いてくれないオングに疲れを覚えていた。

 しかしそれでもうちのギルドマスターよりはマシだと、その方を見る。



「ほう、ほうほう、この術式はこうこうこう! こうなっているのか!!」


 なにかを見て熱心に呟くは魔法士ギルドのギルドマスター・マジルだ。

 彼は魔法研究にひたすら没頭する、もはや狂人と言える類の人物なのだが、その狂いは戦闘中にも発揮される。

 彼はなにかを見るのに必死で、ゴーレムたちが自身に近づいていることにも気づいていないのだ。


「もう、マジルさん、なに見てるんですか!?」

「え、ゴーレムを操っている命令魔法の術式だけど」

「早く言って!!」


 ゴッと、空間の裂け目のようなところからでた巨大な拳が、マジルの見ていたものを壁ごと破壊する。


「ああ! 貴重な術式が!」

「はいはい。今は先に進みましょうね~」

「いたいいたい! 待ってくれ、エルサ君!」


 エルサにエルフ(ダークエルフもだが)特有の長い耳を引っ張られ、遺跡の先へと強制的に進まされるマジル。

 その光景に顔を見合わせて恐る恐る付いていく戦士ギルドのスラーとオング。

 それはお互いのポジションである前衛と後衛が入れ替わっている気がしないでもなかった。


「だいたい、エルサくんは魔法士ギルドとしての自覚をだね」

「今はギルドの自覚より戦士ギルドの人たちとの交流がメインですよ。ね、スラーさん、オングくん?」

「あ、はい」


 それぞれのギルドマスターはスラーとオングなのだが、ここでは明らかにエルサが場を支配していた。

 それにツッコミを入れる空気でもないので戦士ギルド2人はつい返事を返してしまう。


「だいたい、マジルさんは協調性というものをですね」

「っと、魔法士の嬢ちゃん、色々痴話喧嘩したい気持ちもわかるが、お客さん? お迎えさんだ」

「痴話って……!」


 エルサがやや頬を膨らませながらスラーの指さすを見るとそこには丸い黒球から簡略化した人間の手足が生えたようなゴーレムがいた。

 どうも、入り口付近にいたゴーレムと同じく侵入者を排除する機構のようだ。


「あんまり、俺たちは魔法ってやつに詳しくないからよ」

「引き付けておくことはできるんだな」

「戦士さんたち……」

「むっひょー!! これ、かなりレアな魔法具ぅ!! ああ、分解して確かめたい!!」


 他3人のシリアスな雰囲気は、マジルの奇妙な叫びとともに砕けた。

 マジルはいつの間にやらゴーレムの後ろにすり抜けて、その後ろの宝箱を開けていたのだ。

 彼が興味を示す魔法具が入っていたようだ。

 

「まぁ、ああいう勘の良さも必要なのかもなぁ」

「おれ、やる気なくなったんだな」

「もう、マジルさんのせいでめちゃくちゃ……。すぐ連れ戻します」


 そういうとエルサは空間に輪を作った。

 さらにマジルがいる空間に同じような輪がひとつ。

 2つの輪の景色は繋がっていた。


「嬢ちゃん、これは?」

「時空の精霊・クロペスの力の一端を借りて異なる場所と場所を繋げてるんです。なので、えい!」

「むおおお!!」


 マジルが自分のいた場所の輪からでてきた手に引っ張られたかと思うと、エルサのいる場所の輪から引きずりだされた。


「すげー!」

「ほぉ。便利なもんだ」

「エルサくんはこの能力で、”召喚士”なんて呼ばれたりもしているぞ」

「その話はいいです。で、マジルさん。予想はつくんですけど、マジルさんがさっき興奮してたあれって」

「うむ。あのゴーレムに魔法の命令を下している魔道具だ! 簡単なつくりだがだいぶ古代のもので……」


 メキョッ。


「ああ!?」


 エルサはマジルから魔道具をひったくり、ゴミのように踏んづけて壊した。

 その魔道具が壊れるのと一緒に、丸いゴーレムを動きを停止する。

 遺跡の探索はここで終わりだった。




「ごめんなさいね。スラーさん。オングくん。うちのギルドマスターが迷惑をおかけしました」

「ああ、いいのいいの。マジルさん面白くて俺は好きだよ」

「ギルドマスターが言うなら俺も」

「うう……術式が……」


 探索者が拠点とする村で、戦士と魔法士それぞれのギルドの面々は別れを告げる。

 ただ戦士ギルドの面々はこう思ったという。


 今度の探索の時はエルサだけ誘おう、と。

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