リプレイ16 大図書館 ダークエルフの小説家ダーベとうざい本

  そこは、結界の外にあるかつての大図書館。

 今も貴重な書物の内容を読むために訪れる探索者が後を絶たない。

 この本棚の群れに来客が今日もまたひとり。


「確か彼の場所は、ここらへんだったかな」


 ダークエルフの小説家・ダーベは大図書館の本棚の本の上部に指かけ、少し引っ張っては戻した。

 こういった行為は表紙を確認するためにするものだが、彼が本の表紙を気に掛ける様子はない。

 傍から見ればただ行為を無意味に繰り返しているようにも見える。

 その一見無意味な行為を繰り返す内、触れた本から声が漏れ出た。


「のわっ!」

「おっ、いたいた」


”あった”ではなく人間に使うような”いた”という表現。

 これは、彼が本にそういった表現を使うようなヒトだからではない。

 その本は本当に”いる”という表現が合うからだ。

 やがて声をあげた本はダーベが手を離しても、ひとりでに本棚から踊りだす。

 そしてバタバタとやかましく本は自身のページをめくった。


「俺様第7章 569ページ!『せっかく気持ちよく寝てたのに!』」


 この本は本当に、人間のような意志をもっているのだ。

 ダーベはそれを知っている。

 だから驚きもしない。


「やあ、ブック。久しぶり」

「ああ、なんだダーベか。久しぶりだな」


 大仰に本・ブックが自身の持つページを引用して語るのはいわゆるかっこつけだ。

 知り合いならばかっこつける必要もないと、ブックは普通の口調に戻った。

 

「そろそろ、新しいセリフでも欲しくなった頃じゃないかい?」

「おお、もうそんな時期か!」


 ダーベは自身の書いた小説を、ブックに定期的に提供している。

 そうすることで彼のかっこつけの語彙は増えるからだ。

 しかし世はギブアンドテイク。

 ダーベから与えるばかりではない。

 ブックもダーベに与えなければならない。

 ではブックはなにを提供しているのか。

 答えは簡単。感想や意見だ。

 ブックは、ダーベが書いた小説を一番に読める読者。

 他者の視点からの感想・意見をダーベに提供するわけだ。


「ふぅむ。今回暗めだなー。まぁダークな俺様もかっこいいからいいが、子供受けは悪いかもしれないぞ」

「うん。そういう話の気分だったからね。提供先は反抗期盛りの子供くらいがちょうどいいかも。ちょうどこういうのに憧れる年齢のはずだしね」

「お前もそういう時期あったりしたのか?」

「エルフ種はだいぶ長い時生きてるからね。そういう時期は忘れたよ。まぁ、この手の話を書く以上、今もそういった気持ちは持ち続けていようとは思っているけどね」

「大変だなー、小説家っていうのもよ」

「小説家に限らず大人はみんな、大変さ」


 さて、とダーベは立ち上がりブックに背を向けた。

 

「また来るよ」

「おう、お前ならいつでも大歓迎だぜ。今度はアーフのおっちゃんも連れてきてもいいぜ」

「あの人は現場でのスケッチの方がいいみたいだからなー」


 今話題に出たアーフという人物。彼はドワーフの画家。

 ダーベも時折、自分の小説の挿絵や表紙の絵を依頼したりしている。

 ブックも表紙が自分の第一印象になるだけあってアーフのことは気になっているようだ。


 大図書館を出たダーベ。

 あ、と一言漏らした。


「あの本、官能シーン結構激しいんだった。ブックはあれで初心だからなぁ。まぁいっか」


 ブックが激しい官能シーンを誤引用するかもしれない。

 そんなおかしな光景を思い浮かべてダーベは少し笑う。


「次はもうちょっとコメディチックな話でも書くかね」


 次のジャンルも決まったダーベはインスピレーションをもらえる出来事を探しにいくのだった。

  

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