リプレイ14 オリハルコン鉱山 ドジっ子ハーフリンクトレジャーハンター・ドジャーと猫獣人の傭兵・キャッサ
貴重鉱石・オリハルコン。
かつてはこの鉱山から山のようにとれていたという。
しかしそれも遥か昔の話。
どんなものも消費すればなくなるのだ。
この鉱山のオリハルコンは取りつくされて、もうそれを目当てでこんな魔物はびこる鉱山に侵入する酔狂者はいない。
トレジャーハンターという人種と、その付き添いを除いては。
「金もらったからには働くけどさ。本当にオリハルコンなんて残ってるのかい?」
「ぼくのカンが告げています! オリハルコンはかならずあると!」
「ああ、そう」
自分で聞いておいて興味なさそうに猫獣人の女傭兵・キャッサは、トレジャーハンターのハーフリンク・ドジャーに返事を返した。
トレジャーハンターという人種は酔狂なものだ。
危険を冒してまで財宝なんてものに目がくらむ。
しかもそれで痛い目をみてもやめられないんだから。
そういう連中の護衛のおかげで傭兵であるキャッサの懐に金が舞い込むのだけはありがたかったが。
「む! さっそく鉱物発見!」
「あ、おい。うかつに動くな!」
ドジャーが生えていた鉱物の塊に触れると、ぎらりとなにかが光った。
それは魔物の目だ。
鉱石をこれ見よがしに背中に生やして、欲深な探索者を食らう鉱石獣。
「ちっ!」
「ぎゃふっ!」
ドジャーのうかつさに苛立ち舌打ちをして、キャッサは彼を蹴り飛ばした。
そして、魔物の下・腹部に細い糸を伝わせる。
「じゃあな」
細糸は特殊金属性の鉄線。
背中と違い柔らかな魔物の腹はいとも容易く引き裂かれた。
「ひえええ」
鮮やかなキャッサの手並みだったが、ドジャーを怯えさせてしまっているようだ。
しかしキャッサは気にも留めない。
「いくぞ。最深部までは付き合ってやるよ。そういう依頼だからね」
「あっ、はい」
キャッサに促され、ドジャーものぞのぞと歩き出す。
それから、ドジャーは大量のドジを踏んだ。
外部刺激で爆発する魔物を爆発させたり、やたら再生を繰り返す不死身生物を踏んづけたり。
その度にキャッサが尻ぬぐいをする。
さすがのキャッサもこれは依頼の範疇ではなく、お守りかなにかなんじゃないかと思い始めてきた時だった。
「あ、最深部です!」
「はぁ」
ようやくこのドジなトレジャーハンターから解放される。
そんな思いもつかの間、天井から奇声とともになにかが降ってきた。
「くえええええ!!」
鶏のようなそいつは、コカトリスと呼ばれる魔物。
嘴に触れたものを石化させる厄介なやつだと、探索者たちの噂で聞いたことがある。
「ひぇぇぇ」
ドジャーはびびって腰を抜かしているようだ。
幸い、コカトリスの視線はキャッサの方に向けられている。
「ちっ」
キャッサは鉄糸をコカトリスの嘴に絡めた。
まずは一番厄介な武器を封じることが先決だ。
しかし、その嘴は、触れたものを石化させるもの。
鉄糸さえも脆く弱い石に変えられてしまう。
「なにっ!?」
「くえええええ!!」
また奇声をあげ、キャッサに向かうコカトリス。
その頭にコツン、と石が投げ入れられた。
「こ、この鶏野郎! やるならぼぼぼくを狙え!」
石を投げたのはようやく抜けた腰が治ったドジャーだった。
足は震えているが。
「馬鹿! お前じゃすぐやられる……ん?」
気配を感じてちらりとキャッサが後ろを見やる。
なるほどこいつはとキャッサは来訪者を見て閃いた。
「ひぃぃ! くるな、くるな、ごめんなさぁい!」
「そらっ!」
怯えるドジャーに迫るコカトリスにまた、石。
コカトリスは反転。踵を返して石を投げたキャッサの方に突進した。
そしてキャッサは、コカトリスの突進を横に跳んで避けた。
「くえええ!!」
キャッサの後ろにいた、もうひとつの存在にぶつかるコカトリス、
コカトリスの嘴はその存在を石にして砕くがそれはすぐに”再生”した。
石になり、砕け、再生する。石になり、砕け、再生する。
途中でドジャーが踏んづけてそれを追っかけてきた再生生物が永久にコカトリスの動きを封じたのだ。
「さて、逃げるぞ。命あっての物種だ」
「ひゃ、ひゃい!」
いわゆるお日様だっこの状態でキャッサはドジャーを抱え上げる。
普通は男女が逆ではないかと思わなくもないが今の状況だとこっちの方が効率がいいのだ。
ドジャーを抱えたキャッサは、永遠に不死身生物との格闘を続けるコカトリスを横目に鉱山を出た。
「ひー。た、大変でしたぁ」
「ああ、まったくだ。最深部までいくって依頼は終えたし私はいくよ」
「あ、キャッサさん。待ってください!」
「なんだい?」
「これを」
ドジャーが差し出したのは、希少金属・オリハルコンの塊だった。
「これ、いつ手に入れたんだい?」
「気づいたらポケットに入ってました。あれです、チップ? ってやつです」
どうも、ドジを踏んでいる間に知らぬ間に入ってたらしい。
「そのチップはでかすぎるねぇ。あんたが持っときな。お守り代わりでもなんでも」
「え……」
「それを無くさないように気を付けてればドジも治るかもよ」
「ぼ、ぼくはドジじゃありません!」
無自覚か、とキャッサはため息をついてドジな依頼主を村までお守りするのだった。
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