リプレイ17 街道 行商人・マートと魔法人形の情報屋・マップ
「やぁ、こんにちはお嬢さん」
女商売人・マートの行商の途中。
そいつは馴れ馴れしく声をかけてきた。
からくり人形めいた風貌だ。魔法で動くゴーレムの仲間の魔法人形というものだろう。
マートにとって知り合いでも初対面でもないが知らない相手でもない。
「情報屋のマップさん、だっけ?」
「さん、はいらないよ。旅の商人のマート・エラメクちゃん」
大仰に礼をして見せるもののマートの警戒は解けない。
情報屋が欲しいものはマートが持っているような武器や、旅に役立つ消費物などではないからだ。
それでもマートはお決まりの文句を言ってみせる。
「うちは売ります買いませんマート・エラメクおねーちゃんのお店だよ、で通ってるんですけど」
言外に、情報を買う気はないと示して見せる。
それも想定内だったか、情報屋の魔法人形はまた指を立ててちっちっちっ、と振り子のように振った。
「今日はね、買いに来たんだよね」
「へぇ、情報屋がうちから買いをねぇ。なにが欲しいのこの旅のガイドとか?」
マートが自作発行している本を押し売りするような形で取り出した。
それにやんわりと拒否のサインの手を置き、マップは続ける。
「それも興味深いけど。そうだな、その旅のガイド、どうやって書かれてるのか気になるな」
「そりゃああたしが旅したところの思い出を綴ってるのよ」
「そう、確かにそれはキミが旅した内容が綴られている」
マップはなにか探っているようだ。
マートの警戒心があがる。
「ああっと、ダガーに手をかけるのはやめたまえ。別に君にどうこうしようという気はない」
「あたしに、どうこうされるようなことを言う気でしょ?」
ふむとマップは悩ましげなポーズをとる。
人形の身体で表情がない分、体で取るポーズが豊かだ。
「すまない。回りくどかった。君の持つ情報網が欲しい」
「……。情報屋さん、その言葉あたしにどうこうされるような言葉なんだけど、どうせそこのお人形が本体じゃないとか保険をかけているんでしょ」
「ご名答」
「わかったわ。そっちに変な情報でも流されたりしたらこっちにも動きにくい。買いっていうより脅しじゃない? これ」
「そうともいうかもね」
はぁ、とこのやり手の情報屋のペースに飲まれているような気がしないでもない。
しかしマートはある”こと”を成し遂げるため、ここは穏便に済ますしかなかった。
「あたしが商品に記すサインであると同時に眼でもある魔法。そこからの情報は確かにあなたの情報網でもとらえきれない範囲を捉えられるかもね」
「そんな仕組みだったのかい? 知らなかったなぁ」
「しらじらしい。あなたにも”眼”をリンクしておくわ。だから、ここにあるお人形さんは大切に扱うことね」
「助かるよ、レディー。私の方も各地に散らばる人形に君のことを教えておこう。フリーパス持ちのお客さんとしてね」
「そりゃどうも」
そっけなく返すが、マップの情報網の広さは噂になるほどだ。
探索網が2倍になったに等しい。
それはマートにとっても悪い条件ではなかった。
「さて、そこの私も、もう行くよ」
「レディーを誘っておいてツレない紳士ね」
「はは、どこで覚えたのかな。そんな言葉。以前のキミ……」
人形の頭部が、マートのダガーによって首から切り裂かれた。
「とっとと消えなさい」
「ふむ。少し踏み込みすぎたか」
はじけとんだ頭部を抱えて、魔導人形という端末はいそいそと離脱した。
それをみて、はぁ、とマートはため息をつく。
「待っててねメロ。おねーちゃん絶対、諦めないから」
マートはひとり、とある少女のことを思った。
このメロという少女のことについて話すのは、また別の物語で。
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