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リプレイ20 城下町 天使・パパラと舞台魔法演出家セツナ

  天使パパラは今、欲しいものがあった。  それはそれは喉から手が出るほど、神にお仕置きされてもいいほど欲しいものがあった。  それは 「舞歌姫(アイドル)ルコ・ラインちゃんのサインが欲しい……!」  天使にしては俗物的な、しかし確かに貴重なものがパパラは欲しかった。  なのでこうしてルコ・ラインが舞台(ライブ)をした(パパラも堪能した)城下町でルコとの接触を計っているのだが。 「あの付き人のガードが固すぎる……!」  パパラが羽根で飛んで上からルコに会おうとすれば、雷が飛び。  地中を掘り進んで(?)近づこうとすれば地面の到達点を氷が塞ぐ。  その魔法は全て、ルコの付き人の黒髪ポニテ少女が起こしていた。 「なんだよー、あの付き人。そこらの探索者の十数倍は魔法の扱い上手くなーい?」  パパラは知らないが、妨害をしてくる黒髪少女は、ルコの舞台を演出する魔法を手掛ける魔法演出家・セツナ。  パパラは知らず知らずのうちに、魔法のエキスパートと対立する流れになっていたのだ。  しかしパパラも天使。末端とはいえ仮にも魔力の根源・精霊の仮人格(ペルソナ)。  地上に人間に遅れをとるわけにもいかなかった。 「ふふふ、もう小細工はなしだね。真っ向勝負だ、付き人!」  かくして、ルコを巡った攻防の火花が、ルコ本人の知らないところで幕を開けた。  ふよふよと上から怪しい影が接近してくる。  セツナはそれを目を細めて雷の魔法で迎撃する。  律儀に同じ手を繰り返す来訪者に向けて同じ手を繰り出す。  この不審者は、ものすごく怪しいというカンの元、セツナはルコに近づけさせないための妨害魔法を張り巡らせた。  この街には、セツナの意志ひとつで起爆する魔法がわんさか置かれているのだ。 「セツナちゃーん、あっちのお店、おいしそう!」 「うん、そうだね」  後はルコに気づかれないように不審者を追っ払えばいい。  務めて自然体でセツナはルコの城下町探検に付き合った。  その控え目な笑顔の裏では、光の魔法を使う不審者との凄まじい攻防が繰り広げられていることを隠して。 「ぐぎぎー。あの付き人、澄ましちゃってぇ~。光魔法をぶっぱ……はさすがに人間への被害が大きすぎて神様に怒られる。あ、そうだ」  パパラは頭の中で名案を思い付き、すぐさま実行した。  光の魔法を込めた小さな球がいくつかパパラの周囲を巡る...

リプレイ19 兎平野 旅人ケイとアマリー、英雄志望の女の子・ハティ

  兎平野。  一般的に出没する魔物が弱い場所だが、この平野にはこんな噂がある。 『夜の兎には気をつけろ』 「いやー、噂の2人の活躍、目の前で見られるなんて光栄です、勉強します」  先往く2人の旅人を見て、純粋という言葉がこれほど似合うものもない目を輝かせるのは駆け出し冒険者のハティ。  そんなハティの曇りなき眼で見つめられているのは、ケイとアマリーの人間(女)と魔族(女)の旅人コンビだ。 「え、噂になってたんですか。悪い噂ですかね?」 「この反応で悪くはないでしょ……。ちなみにどんな噂になってるの?」  敬語でややボケ気味なことを言うケイと、ツッコミ寄りな返事を返すアマリー。  アマリーが、直接的に自分たちがどういった噂になってるのかキラキラと目を輝かせるハティに聞いてみることにした。 「女性2人の漫才コンビって、すごく噂されてます!」 「漫才……」  良くも悪くもない……いや、どちらかというと悪いよりじゃないかこれと気持ちを巡らせるケイとアマリー。  そんな様子を気にも留めず、ハティはふん、と鼻息を鳴らしてべちゃくちゃと語り始めた。 「お二人は漫才ができるほど、息の合ったパートナーってことですよね! あたしにもそんなパートナー、できるといいなぁ。それであたしも噂になっちゃったりして~」  どうやらこの駆け出し少女は、妄想がお好きなようだ。  しかしケイとアマリーは息の合ったという考えは悪くないなと、お互いを見合わせる。  そうしてなんだか子供めいたハティの頭を同時に撫でていた。 「はっ! こ、子供扱いしないでください」  ぷぅ、とハティが頬を膨らませる。  さすがにやりすぎたか。ごめんなさい、とケイとアマリーの手がハティの頭から離れた。 「いや~年頃の子の扱いって難しい」 「あたしから言わせりゃあんたも年頃の娘も」 「え~、なんですかそれ」 「仲いいなぁ~」  本当に和気あいあいとした空気だが、ケイたちはここに探索に来たので。  こつんと、ハティになにかがぶつかった。 「わっ、ごめんなさい。……うわぁ!?」  ハティにぶつかったなにかは魔物だった。  ガルーという有袋類の二足歩行の獣。  魔物中では弱いが、それは魔物の中での話。  いくら弱くても魔物は脅威なのだ。 「ハティ、そのまま!」  ケイがハティの頭上でダガーを振り、ガルーの首を切り裂いた。  ぼ...

リプレイ18 錬金術ギルドとヤク中薬師ポール

  錬金術ギルド。  そこでは物質と物質を混ぜ合わせ、異なる性質に変える錬金術という秘術を研究する代わりものの集まりだった。 「ふおおお! この前はぎ取った天使の羽根と、ある火山に住むという火の鳥を混ぜ合わせぇ! わしの最強のキメラを作るのじゃぁ!」  釜になにやら怪しげな素材を入れるのはギルドマスターにしてキメラ研究家のドワーフ・ドウラ。  どうやら最近珍しい素材が手に入ったということでさっそく合成獣・キメラの作成に精を出しているようだ。 「ギルドマスター、その内あたしの鱗が欲しいとか言わないでくださいよー?」  水槽に下半身の魚の尾を漬からせながら、引き気味にドウラの様子を見るのは人魚のレーマ。  彼女は彼女で、陸上では不便な魚の下半身を人間の足に変える薬の開発・改良に勤しんでいる。 「いや、人魚の鱗は弱そうだからいらん」 「キー! それもなんかむかつく」  錬金術ギルドの面々は研究内容が研究内容だけに周囲から奇異の目で見られている。  そんな錬金術に訪れるのはよっぽど要件持ちか、彼らに劣らない変人だ。  今回扉を勢いよく開け放ったのは、後者の人種。 「うぃー! やってるかーい!?」  なにやら怪しげな葉っぱを口に咥えて貪りながらやってきたのは、エルフで薬師のポールという男性。  若い見た目が特徴のエルフにしては、人間の30代くらいとやや老け気味。それでも若いという分類には入るだろうが。 「げっ、ポールさん」 「見るからに嫌そうな顔するなよ、レーマ。ほれ、気持ちよくなる葉っぱ、食う?」 「それエグい副作用つきでしょ」 「こんなのが薬師なんだから世の末じゃわい」 「うるせー、ドウラには言われたくねー」  酔っ払いともその手のあれな類ともわからないような足取りで、ポールは勝手にギルドの設備を使い始める。 「ポールさん、今日はどっち?」  レーマがポールにどっちか、と聞いたのは彼がこの設備を使う時の目的が2つあるからだ。  1つは今咥えているような”気持ちよくなる”薬草の調合。  もうひとつは。 「残念ながら、仕事の方だよ」  まっとうに、怪我や病気を治す方の薬草の調合。  完全に終わってる目をして時たま幻覚も見るが、ポールは薬師としては紛れもなく優秀だった。  曲りなりにもギルドマスターのドウラが設備を無償で貸しているのもそのためだ。  会話を終えて、3人は...

リプレイ17 街道 行商人・マートと魔法人形の情報屋・マップ

 「やぁ、こんにちはお嬢さん」  女商売人・マートの行商の途中。  そいつは馴れ馴れしく声をかけてきた。  からくり人形めいた風貌だ。魔法で動くゴーレムの仲間の魔法人形というものだろう。  マートにとって知り合いでも初対面でもないが知らない相手でもない。 「情報屋のマップさん、だっけ?」 「さん、はいらないよ。旅の商人のマート・エラメクちゃん」  大仰に礼をして見せるもののマートの警戒は解けない。  情報屋が欲しいものはマートが持っているような武器や、旅に役立つ消費物などではないからだ。  それでもマートはお決まりの文句を言ってみせる。 「うちは売ります買いませんマート・エラメクおねーちゃんのお店だよ、で通ってるんですけど」  言外に、情報を買う気はないと示して見せる。  それも想定内だったか、情報屋の魔法人形はまた指を立ててちっちっちっ、と振り子のように振った。 「今日はね、買いに来たんだよね」 「へぇ、情報屋がうちから買いをねぇ。なにが欲しいのこの旅のガイドとか?」  マートが自作発行している本を押し売りするような形で取り出した。  それにやんわりと拒否のサインの手を置き、マップは続ける。 「それも興味深いけど。そうだな、その旅のガイド、どうやって書かれてるのか気になるな」 「そりゃああたしが旅したところの思い出を綴ってるのよ」 「そう、確かにそれはキミが旅した内容が綴られている」  マップはなにか探っているようだ。  マートの警戒心があがる。 「ああっと、ダガーに手をかけるのはやめたまえ。別に君にどうこうしようという気はない」 「あたしに、どうこうされるようなことを言う気でしょ?」  ふむとマップは悩ましげなポーズをとる。  人形の身体で表情がない分、体で取るポーズが豊かだ。 「すまない。回りくどかった。君の持つ情報網が欲しい」 「……。情報屋さん、その言葉あたしにどうこうされるような言葉なんだけど、どうせそこのお人形が本体じゃないとか保険をかけているんでしょ」 「ご名答」 「わかったわ。そっちに変な情報でも流されたりしたらこっちにも動きにくい。買いっていうより脅しじゃない? これ」 「そうともいうかもね」  はぁ、とこのやり手の情報屋のペースに飲まれているような気がしないでもない。  しかしマートはある”こと”を成し遂げるため、ここは穏便に済ますしか...

リプレイ16 大図書館 ダークエルフの小説家ダーベとうざい本

  そこは、結界の外にあるかつての大図書館。  今も貴重な書物の内容を読むために訪れる探索者が後を絶たない。  この本棚の群れに来客が今日もまたひとり。 「確か彼の場所は、ここらへんだったかな」  ダークエルフの小説家・ダーベは大図書館の本棚の本の上部に指かけ、少し引っ張っては戻した。  こういった行為は表紙を確認するためにするものだが、彼が本の表紙を気に掛ける様子はない。  傍から見ればただ行為を無意味に繰り返しているようにも見える。  その一見無意味な行為を繰り返す内、触れた本から声が漏れ出た。 「のわっ!」 「おっ、いたいた」 ”あった”ではなく人間に使うような”いた”という表現。  これは、彼が本にそういった表現を使うようなヒトだからではない。  その本は本当に”いる”という表現が合うからだ。  やがて声をあげた本はダーベが手を離しても、ひとりでに本棚から踊りだす。  そしてバタバタとやかましく本は自身のページをめくった。 「俺様第7章 569ページ!『せっかく気持ちよく寝てたのに!』」  この本は本当に、人間のような意志をもっているのだ。  ダーベはそれを知っている。  だから驚きもしない。 「やあ、ブック。久しぶり」 「ああ、なんだダーベか。久しぶりだな」  大仰に本・ブックが自身の持つページを引用して語るのはいわゆるかっこつけだ。  知り合いならばかっこつける必要もないと、ブックは普通の口調に戻った。   「そろそろ、新しいセリフでも欲しくなった頃じゃないかい?」 「おお、もうそんな時期か!」  ダーベは自身の書いた小説を、ブックに定期的に提供している。  そうすることで彼のかっこつけの語彙は増えるからだ。  しかし世はギブアンドテイク。  ダーベから与えるばかりではない。  ブックもダーベに与えなければならない。  ではブックはなにを提供しているのか。  答えは簡単。感想や意見だ。  ブックは、ダーベが書いた小説を一番に読める読者。  他者の視点からの感想・意見をダーベに提供するわけだ。 「ふぅむ。今回暗めだなー。まぁダークな俺様もかっこいいからいいが、子供受けは悪いかもしれないぞ」 「うん。そういう話の気分だったからね。提供先は反抗期盛りの子供くらいがちょうどいいかも。ちょうどこういうのに憧れる年齢のはずだしね」 「お前もそういう時期あった...

リプレイ15 滅びた村 バカップル探索者ヴェルデイとリア、恋探しのエルフ・ラル

  かつて、そこには村があった。  今や滅びたそこでは住民たちの無念が魔物となって化けて出ている。  そんな滅びた村の中に生きた者の影が3つ。 「きゃー、こわーい!」 「あんまりくっつかないでほしいんだが……」 「むむー」  探索者でパートナー同士の男戦士・ヴェルデイと女魔法士リア・シール。  それと今回の同行者エルフの女性・ラルだ。  このラルという女性をリアは警戒していた。  やたらヴェルデイとの距離が近いのだ。  その距離は私のものなのに、と頬を膨らませる。  ちらりとリアの視界に、こちらを見るラルの表情が映った。  にやりと笑うその顔は、明らかに悪意がある。 「ヴェールデイ♡」  ならば渡してなるものかとリアもヴェルデイとくっついていちゃいちゃするのだ。 「リアまで。さすがに動けないんだが」  両手に花、などといえば聞こえはいいが戦士が両手を封じられては死に体だ。  申し訳ないと思いつつ、ヴェルデイは二人の腕を振りほどく。 「俺が先に行くから、ついてきてくれ」 「はーい」  後ろの2つの返事を返した当人たちの視線の間でバチバチと火花が交わされていることを、ヴェルデイは気づいていなかった。    魔物は無念の住人だけではない。  かびの生えたきのこのような魔物は村が朽ちていき、放置された様を象徴するかのよう。  この魔物自体の強さはたいしたことはないが、気持ちが暗くなるような見た目ではある。  このかびきのこだけに限らない。  滅びた村は住人がいなくなり使われることのなくなった椅子などの家具すらも魔物化し、探索者に襲い掛かる。  それでも、探索者の基本は変わらない。  前衛である戦士・ヴェルデイがどこぞの商人にお高く買わされた手甲で切り込み、後衛の魔法使い・リアとラルが攻撃や支援系の魔法でサポートする。  ヴェルデイとリアは探索のパートナーとして長いこと一緒にいるが、ラルとの連携もなかなかのものだ。  基本的に協力が必須な探索者という者たちは、初見の相手ともある程度息を合わせることができる。  滅びた村の雰囲気が漂わせる嫌な空気はあるものの探索自体は順調だった。  広間。  かつて村人たちの交流に使われていたのだろうか。  地面にカビや粘糸が生えたその中央に鎮座する不自然な鏡、  まるでそこだけ切り取った時代が違うかのように、鏡は傷ひとつ汚れひとつ見ら...

リプレイ14 オリハルコン鉱山 ドジっ子ハーフリンクトレジャーハンター・ドジャーと猫獣人の傭兵・キャッサ

  貴重鉱石・オリハルコン。  かつてはこの鉱山から山のようにとれていたという。  しかしそれも遥か昔の話。  どんなものも消費すればなくなるのだ。  この鉱山のオリハルコンは取りつくされて、もうそれを目当てでこんな魔物はびこる鉱山に侵入する酔狂者はいない。  トレジャーハンターという人種と、その付き添いを除いては。 「金もらったからには働くけどさ。本当にオリハルコンなんて残ってるのかい?」 「ぼくのカンが告げています! オリハルコンはかならずあると!」 「ああ、そう」  自分で聞いておいて興味なさそうに猫獣人の女傭兵・キャッサは、トレジャーハンターのハーフリンク・ドジャーに返事を返した。  トレジャーハンターという人種は酔狂なものだ。  危険を冒してまで財宝なんてものに目がくらむ。  しかもそれで痛い目をみてもやめられないんだから。  そういう連中の護衛のおかげで傭兵であるキャッサの懐に金が舞い込むのだけはありがたかったが。 「む! さっそく鉱物発見!」 「あ、おい。うかつに動くな!」  ドジャーが生えていた鉱物の塊に触れると、ぎらりとなにかが光った。  それは魔物の目だ。  鉱石をこれ見よがしに背中に生やして、欲深な探索者を食らう鉱石獣。 「ちっ!」 「ぎゃふっ!」    ドジャーのうかつさに苛立ち舌打ちをして、キャッサは彼を蹴り飛ばした。  そして、魔物の下・腹部に細い糸を伝わせる。 「じゃあな」  細糸は特殊金属性の鉄線。  背中と違い柔らかな魔物の腹はいとも容易く引き裂かれた。 「ひえええ」  鮮やかなキャッサの手並みだったが、ドジャーを怯えさせてしまっているようだ。  しかしキャッサは気にも留めない。   「いくぞ。最深部までは付き合ってやるよ。そういう依頼だからね」 「あっ、はい」  キャッサに促され、ドジャーものぞのぞと歩き出す。  それから、ドジャーは大量のドジを踏んだ。  外部刺激で爆発する魔物を爆発させたり、やたら再生を繰り返す不死身生物を踏んづけたり。  その度にキャッサが尻ぬぐいをする。  さすがのキャッサもこれは依頼の範疇ではなく、お守りかなにかなんじゃないかと思い始めてきた時だった。 「あ、最深部です!」 「はぁ」  ようやくこのドジなトレジャーハンターから解放される。  そんな思いもつかの間、天井から奇声とともになにかが降って...

リプレイ13 ゴーレムの遺跡 戦士ギルドと魔法士ギルド 合同探索

  探索者の戦術は大きく2つに分かれる。  先陣を切って魔物に金属製の武器などの物理攻撃で対抗する前衛・戦士。  魔法を使って、魔物を攻撃したり戦士を支援する後衛・魔法士。  彼らはそれぞれ異なるポジションにいるがゆえ、違う役割を持つ仲間を求める。  さて、ここでもうひとつの話。  探索者たちは時折、ひとつの共通の目的の元連合を組む。それらはギルドなどと言われたりもする。  外の世界の生態系などを調査する調査隊ギルドなんかはそのひとつだ。  この話に登場するギルドは2つ。戦士の集まり戦士ギルド。魔法士の集まり。魔法ギルド。  ここで2つの話は合流する。  つまりは戦士ギルドと魔法士ギルドは互いにないもの持っていて、互いに欲しがっている。  協力関係にあるのだ。  これからするのはそんな2つのギルドのちょっとした探索の話。 「おらぁぁ!!」  戦士ギルドの男オーク・オングが鎖の先に鉄球のついた武器・モーニングスターで石人形を殴って、石の壁に叩きつけた。  派手な音を破裂させて叩きつけられたものの、石人形はダメージを受けた様子もなく立ち上がる。 「だーかーらー! ゴーレムは命令魔法を封じなきゃ意味ないって言ってるでしょ!」  オングに怒声を浴びせるのはダークエルフの女性・エルサだ。  本来、ダークエルフというのは結構悪辣なイメージが世間の認識なのだが、エルサというダークエルフはそれとは違う。  かなり生真面目で、善良なのだ。  ここに来る前もオングに懇切丁寧に今対峙している石人形・ゴーレムの仕組みについて解説してやった。  オングの方は理解できなかったのか首をかしげていたが。 「オング、魔法士の嬢ちゃんの話だと、その石人形を操ってる本体があるんだとよ」 「なるほど! さすがギルドマスター!!」  槍を構えて石人形をいなすのは戦士ギルドのギルドマスター・スラーだ。  オングはどうも、スラーの言葉なら聞いてくれるようだ。  エルサはまともなスラーを介してでなければ話を聞いてくれないオングに疲れを覚えていた。  しかしそれでもうちのギルドマスターよりはマシだと、その方を見る。 「ほう、ほうほう、この術式はこうこうこう! こうなっているのか!!」  なにかを見て熱心に呟くは魔法士ギルドのギルドマスター・マジルだ。  彼は魔法研究にひたすら没頭する、もはや狂人と言える類の...

リプレイ12 王の間 騎士団長・ハーリアと暗殺者・シェイド

 【今宵、グンキ王を暗殺する】  王城に届けられたメッセージは、暗殺者によるもの。  特徴的な影の魔物のマークは発信者が”シェイド”という暗殺者であることを示す。  そのメッセージを受けて王宮騎士団団長の女騎士・ハーリアはグンキ王の護衛を務めていた。 「騎士団長、本当に大丈夫じゃろうか」 「ええ、私がお守りしますので、グンキ王」  グンキ王は国民を思う良き王なのだが、このように臆病のきらいがある。  この臆病さで影武者すら用意してないというのはグンキ王の人の良さ、いや、良すぎさの現れか。  もう少し自信と、自分たちへの信用をもってほしいのだが、とハーリアは心でこぼした。  シェイドという暗殺者。  彼とは何度も手合わせたことがある。  冷徹に、任務を遂行しようとする無感情という言葉そのもののような表情。  ただどうも、彼はハーリアに執心しているようだ。  わざわざグンキ王という、ハーリアが立場上居合わせそうな場所を選んだところからもそれが窺える。  暗殺者は唐突にやってきた。  まるで、我が家の玄関を開くかのようにグンキ王が座す王の間に侵入してきたのだ。 「ひぃ!? け、警備のものは!?」 「俺がそこらに寝かせておいた。……騎士団長」 「王、お下がりを」 「あ、いや、腰が抜けて……」 「では、そのままで」 「俺を無視するな!」  ほう、とハーリアがシェイドを見る。  この男は無表情がウリだった。少なくとも以前あった時はそうだった。 「お前を殺さねば、俺の気が済まない」 「ふむ、恨みを抱かれるようなことは……悪党にはしてしまったかもしれないな」  ふっ、と王の間の灯りが消えた。  それはシェイドの仕業だった。  シェイドの放った闇の魔力が、周囲から光を奪ったのだ。 「ひぃぃぃ!」 「王!」  臆病なグンキ王が驚いてあげてしまった声。  それは達人クラスの戦闘技術を持つものなら明確な目印となった。  目印に向かって向けられる刃。その刃を防ぐためのもうひとつの刃。  シェイドの剣とハーリアの剣が、甲高い金属音と闇をわずかに照らす火花を放った。 「光、光だ。うっとうしい光!」  怒りに任せるような横薙ぎの剣。  それはまるで自身に群がる虫でも払うかのよう。  そんな攻撃が、騎士団長・ハーリアに当たるはずもない。 「シェイド、なにをそんなに怒る?」 「知れたこと、俺は...

リプレイ11 探索者の拠点村 舞歌姫(アイドル)ルコ・ラインと舞台魔法演出家セツナ

  探索者たちが拠点にする村。  村中では普段見慣れないヒトたちも見かけて、いつもより数段の賑わいを見せていた。  なんでも流浪の大人気舞歌姫(アイドル)ルコ・ラインがこの村で舞台(ライブ)を開くそうだ。  それを一目見ようとここを拠点にしている探索者以外も出向いてきたというわけだ。 「ルコちゃんのライブ楽しみだなー」 「俺、生舞台初めて見るよ」  村の話題はルコのことで持ち切りだ。  また、飲食店の店長・店員たちはルコ目当てできた客層も増えた客を捌くので大忙し。  これほど期待されている舞歌姫(アイドル)ルコ・ラインは。 「どどどどーしよ、セツナちゃん! ききき緊張してきたー」  ガチガチに緊張していた。 「だ、大丈夫。ルコ、いつも通りいつ通り」  ルコの緊張をほぐそうと必死になだめる少女はセツナ。  ルコの舞台を魔法で演出する舞台魔法演出家であり、ルコの友人でもあった。 「で、でもー」 「ルコ。私はルコが最後にはちゃんと輝ける子だって、今まで見てきたから。自信をもって」 「セツナちゃん……。うん、がんばるよ!」  可愛らしく意気込みのはな息を鳴らして、決意を新たにするルコ。  どうやら、落ち着いてきたようだ。  ルコは緊張しいだが、ちゃんと自身を鼓舞すればそれも跳ねのけられる少女だ。  セツナはそれを、一番近くで見てきた。  だからルコを信じて舞台に送り出すし、自分も魔法演出家としての最高の仕事をこなす。  それは、自分が信じたルコという偶像(アイドル)に最大限輝いていて欲しいから。  やがて時は過ぎて、ルコが今日の舞台に立つ時が来た。  すぅ、とルコが息を吸い込む。 「みんな! 今日は来てくれてありがとー! わたしの歌と踊りで、みんなが元気になると嬉しいな!」  沸き上がる歓声。  ルコにも、日々を懸命に生きる人々を、少しでも元気にしたいという信念がある。  その信念の前では、緊張など些細なことだった。  舞台に立つその瞬間だけは、ルコと、そしてセツナ、2人の少女たちは人々の心の太陽になるのだ。 「それでは見て、聞いてください! 最初の曲は『going the world』!」  力強いステップが、明るく前へと進むような歌声が、少女の道を照らすような魔法の演出が、あるいはそれら全てが観客たちを熱狂させる。  この舞台は間違いなく、成功と言ってよかった。...